近年、日本のHR界隈では、「ダイレクトリクルーティング」や「リファーラルリクルーティング」という言葉がトレンドになっています。

リファーラルリクルーティング

従来の日本の採用手法である転職サイトやエージェントを使わず、自社のリソースのみで採用を完結させる手法であり、いわゆる自社の従業員の繋がりを活用した社員紹介(縁故採用)などを指す採用手法です。

人と繋がる

従来の日本の「縁故採用」は、企業幹部や取引先の親族を、「裏口入社のような通常とは異なる選考ステップで採用する」というネガティブなイメージがありますが、「リファーラルリクルーティングは」は、質の高い候補者を採用するための手段として、社員の人脈を積極的に活用することをいいます。

「自社の現場をよく知る優秀な社員の知り合いであれば、マッチングの精度も高く、優秀である」
このような、
信頼できる社員の繋がりを活かした採用手法がそれにあたります。

この採用手法のメリットデメリットなどについては、既に様々なメディアやブログで書かれていますのでそちらをご参照ください。


かくいう私は現在、このリファーラルリクルーティングという採用をどうすれば促進できるか、ということをテーマに講義を開かせていただいております。

■セミナー情報
採用難時代における新たな採用手法 「リファーラルリクルーティング」

http://saiyo.inte.co.jp/seminar/ReferralRecruiting_20150826/ 

これまで全15回開催し、計200社を超える企業様にご来社いただいているのですが、今回は時間の制約もありその中では話し切れていない内容、
『どうしてこれまでリファーラルリクルーティングが日本に定着してこなかったか』について書き綴っていきます。

 

日本の企業の多くはリファーラル採用を戦略的に活用できていない。

昨今、リファーラルリクルーティングという採用手法はHR界隈で注目を浴びていますが、日本においてこの採用手法を戦略的に活用できている企業は非常に少ないという現状です。

これを考察するうえで、まずは日米のリファーラル採用の位置づけ、活用度について比較してみます。


・米国:およそ7割の企業が戦略的にリファーラルリクルーティングを活用
アメリカでのリファーラル採用は企業のメイン採用チャネルである。)


・日本:日本の転職市場の
全求職者の20%は縁故採用で入社をしているが、戦略的にリファーラルを取り入れている企業は極めて少ない。
日本でのリファーラル採用は企業のサブ採用チャネルであり、20%
の大半は地方、かつ比較的高齢層の縁故採用が多い。上述のネガティブな意味での繋がり採用が多い。)
 

■参考:日本の転職入職者の入職経路(2010年/新規就業者は含まない)

日本における縁故採用
[出展]2020年の労働市場と人材サービス産業の役割
社団法人全国求人情報協会、社団法人日本人材紹介事業協会、社団法人日本人材派遣協会、社団法人日本生産技能労務協会という人材ビジネスを代表する主要団体で設立された「人材サービス産業の近未来を考える会」が発表した年間求職における縁故を締める割合

 

 

■なぜ「リファーラルリクルーティング」が日本で浸透してこなかったか

これは大きく分けて、①企業の採用文化、②個人の転職文化という二つの観点から考えられます。

日米の企業の採用文化の違い

日本における採用は基本的には人事部が主体です。
現場は採用の裁量を持っておらず、現場社員は本業(主業務)に従事せよという文化が根付いています。

一方米国においては、採用の裁量、場合によっては社員の給与の決定権まで現場が持っているケースが多く、現場から主体的に動いて仲間を探すという文化があります。

これは、リクルートやインテリジェンスといった大手人材会社が、現場を巻き込まなくとも、企業(人事)から主体的に動かなくとも採用ができるという便利な採用の土俵を形成してきたからに他なりません。

日本における中途採用市場は人材会社がメインです。
欲しい人材の要件定義から、候補者へのアプローチ、日程調整からクロージングまで、エージェントが企業の人事機能を担っているといっても過言ではないくらいです。

また、求人広告を掲載するにしても、ターゲット分析から広告のコンセプトメイク、取材から原稿作成までを人材会社が担当してくれます。

米国においては、人事、現場が自分たちで求人を作成してジョブボードにアップする。
採用の要件定義から候補者へのアプローチも企業が主体で行い、人材会社はサブ機能として活用します。


このように、大手人材会社の過保護な(企業からそこまで能動的に動かなくても何とかなる)人材サービスが、長年の日本の採用文化を形成してきたのです。その結果、企業側から現場を巻き込んで主体的に採用活動をするという文化が育まれてこなかったというのが一つの要因です。 

 

日米の個人の転職文化の違い

日本の労働市場には、終身雇用、年功序列という特徴があります。
これらより、転職はリスクであり(キャリアアップできない)、転職活動はクローズドに(ひっそりと)という文化が形成されてきました。

日本人の生涯転職回数は12回(米国は10回を超える)と、いまだに終身雇用の概念が残っています。
また、転職活動をしていることが社内にばれたら窓際に追いやられるかもしれない、転職活動をしていることが友人にばれたらネガティブに思われるかもしれない、というようなクローズドな文化が根付いています。

実際に米国ではSNS等でオープンに転職活動をする人も少なくないですが、日本においては身近な友人にしか転職活動状況を明かさない傾向が多いです。
つまり、転職者側からも自分の転職意向をオープンにできず、転職者側から自分の友人の現場社員に声をかけるという文化が育まれてこなかったのです。


上記①、②より、

企業(現場社員)、個人(転職希望者)間の声を掛け合うという摩擦が生まれにくい市場特性が、繋がりによるリファーラルリクルーティングが長年浸透してこなかった大きな要因です。

 

有料職業紹介を取り巻く法的な違いやそれ以外の要素も多分にありますが、この二つの文化・構造的な違いが大きな要因だと考えられます。


■まとめ
日本においては、これまで法人、個人の採用文化、転職文化から、繋がりを活用した採用活動がなかなか戦略的に浸透してきませんでした。 

とはいいつつも、近年のソーシャルメディアの発達もあり、既存の採用チャネルに頼らないリファーラルリクルーティングの利便性・効率性は飛躍的に進化しています。アナログではなく、SNSのカジュアルな繋がりを活かした転職活動などは、IT領域では既にデファクトスタンダードになりつつあるような状況です。

私が運用している事業・上記のセミナーにおいても、ITのみでなく、人材、コンサル、メーカー、建築、飲食・サービス、介護と幅広い領域の企業様からご相談をいただき参加いただいております。

今日本の採用市場は、テクノロジーの進化と少子高齢化、グローバル化により、大きな転換期を迎えております。

エージェントや転職サイトといった外部採用サービスに頼らない『リファーラルリクルーティング』は、自社採用力を強化しようと考える多くの企業で、重要な採用戦略となるでしょう。